【目からウロコ!】七田式教育の代表 七田厚が語る幼児教育「その時、父は…」第2回 七田 厚

道端で拾った、折りたたまれたお札の行方

父(七田眞:七田式教育創始者*)には、子供にいろんな経験をさせようという考えがあり、自分が銀行へ行く用事がある時に、私を連れて行くことがありました。それは私が小学2年生の時だったと思います。用事が終わり、銀行を出ると、私の足元に、折りたたまれたお札が落ちていました。

「あ、お金が落ちてる!」 私はそう言って、そのお金を拾い上げました。四つ折りになったお札を広げてみると、2枚あり、それは、今は懐かしい板垣退助の百円札だったのです。

その時、父はなんと言ったでしょう?

意外だった父の提案

父は、「こういう時は、交番に届けるんだよ。」と言い、目の前の横断歩道を渡ったところにある交番に、私を連れて行きました。そして、「あなたが見つけたんだから…」と、私に、拾得物に関する書類を書くよう促したのです。

書類を書き終わると、おまわりさんに、「半年間、落とし主の方が現われなかったら、連絡しますので、その時は、またここへ来てください。このお金はあなたのものになります。」と言われました。裸銭というのは、落とし主も、どこで落としたのか見当がつかず、迷宮入りになってしまうことがほとんどなのでしょう。

結局、半年経っても200円の落とし主の方は現われず、再び、父に連れられて、その駅前の交番に行きました。書類を書いて200円を受け取り、交番を後にした時、父から、意外な提案がありました。

「そのお金は、あなたが拾って半年経って、今はあなたのお金になったんだけど、もし、あなたさえよかったら、その200円に、お父さんが少しお金を足して、それで本立てを買って、明日、学校に、『この本立てを学級文庫を並べるのに使ってください。』と持っていくのはどうだろう。みんな、きっと喜ぶと思うよ。」と。

父にそう言われて、私の脳裏には、級友たちの笑顔が浮かびました。そして、その「笑顔」と「200円」を比べ、私は父の提案を受け入れることにしました。

次の日、先生に、私がどういう事情でこの本立てを持ってきたのかを説明し、そのことを先生がクラスのみんなの前で発表して、みんなから拍手してもらって、とても照れくさかったことを覚えています。

父は、私に決して押し付けることなく、提案として、私の気持ちを引き出し、そういう経験をさせてくれたのです。

大切な経験を親から子へ

その8年後、私は広島の高校に入学し、学校の寮に住んでいました。

ある日、学校から遠く離れたところにある寮までの帰り道、たまには違った道を通ってみようと、初めて通る道を、一人、自転車を走らせていました。すると、その時、道路に折りたたまれたお札が落ちているのを見つけたのです!さっと拾い上げ、広げてみると、それは五千円札でした。

この時も裸銭でしたし、道路に落ちていたものなので、小学生の時の経験がなければ、「ラッキー!」とばかりに、すぐポケットに入れて、自分のものにしていたかもしれません。でも、以前、父に連れて行ってもらったことを思い出し、こういう時は…と、交番に立ち寄って手続きをしたのでした。

 

ところで、つい先日の夜、広島のとあるスーパーの駐車場で財布を落としてしまいました。

私はそのことに気づかず、車を走らせていたのですが、約1時間後、スーパーの近くの交番から、「財布を預かっています。」と連絡があり、Uターンして、その交番を訪ねました。届けてくださった方は、幼い男の子を連れたお父さんだったそうです。

それを聞いて、その方が見つけて届けてくださったことに感謝するとともに、そのお子さんにも、お父さんからバトンが渡されたな!と思ったのでした。

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七田眞:七田式教育創始者
現在では、全国に約450教室、世界14か国に広がる「七田式教育」創始者。著書は200冊を超える。